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■ 登り窯とは |
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現在、焼物の多くは電気窯やガス窯で焼かれております。微調整が容易で安定して焼け、かつ設置・維持コストが安いことがその理由です。しかし、それらの窯が普及する前までは、窯と言ったら登り窯や窖窯(あながま)などの「薪を使って焼く窯」のことを指しました。そして、それらの窯(以下、薪窯)は数千年の歴史を経て改良に改良を重ねられた陶工達の英知の結晶でもあるのです。
登り窯は、そういった現代に伝わる薪窯の代表例です。
薪窯の特徴といいますと
1) 燃料は薪(主に松の木)である
2) 焼成が難しく、結果が不安定である
3) 作品に灰が降りかかるため、それが景色となったり失敗となったりする
4) 大量の煙を排出するため、周辺住民に迷惑がかかる場合がある
といったことが挙げられます。そして、登り窯となりますと以下の項目が加わります。
5) 一般的に大きな窯である
6) 焼成室がいくつかに区切られている
7) 窯が斜面上につくられている
なお、私共の登り窯には焼成室が4部屋あり、窯詰め可能部分の容積でいいますと合計約9m3もの広さがあります。これは、だいたい品物が2000〜3000点入る大きさです。
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■ 登り窯の歴史 |
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かつて、焼物は野焼きと呼ばれる方法で焼いてました。地面を少し掘って窪みを作ってそこに作品を置き、その上や周囲で草木を燃やすという簡単な方法です。しかし、それでは熱効率が悪く温度も十分に上がらないため、後に窯を作ってその中で焼くという方法を発明しました。窖窯(あながま)と呼ばれる窯です。その窖窯をもとに、温度差を少なくしたり熱効率を上げるために登り窯が考案されたと言われております。
しかし登り窯はもともと日本で考案されたものではなく、16世紀末に朝鮮から九州の唐津へ渡った陶工によって伝えられました。そしてそこから日本全土へ広まっていったと考えられています。そしてそれは各地の特性を反映して微妙に構造や焚き方を変えていきました。例えば有田では高温で還元焼成を行い、備前では低温でじっくりと焼き、京都では部屋毎に酸化と還元を使い分けて焼く...といったように。一方で、登り窯ではなく大窯や蛇窯を使用してきた産地もあります。
近年、登り窯の燃料となる薪(松の木)の確保が難しくなってきたこと(自然環境を守るという点からも)、登り窯が排出する煙、そして窯焚きにおける労力、そして手軽で比較的安定焼成のできる電気窯やガス窯が普及してきたことによって、登り窯の数や焼成回数は急速に減少してきました。登り窯はあるけれど焚くことはないという産地が多い中、私共楢岡焼窯元では今なお登り窯を焚き続けております。それは薪窯ならではの風合いを出すためであるとともに、『薪を投げ入れ、炎をコントロールし、窯を操って作品を焼き上げる』という陶芸家としてのプライドとこだわりがあるために他なりません。
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■ 登り窯の構造 |
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登り窯の各部屋は一番下が大口(燃焼室)となっており、その上から一番窯、二番窯...と焼成室が続き、それらが繋がった形態をしています(私共の登り窯は四番窯まであります)。そして最上部の部屋の先は煙道そして煙突へと続きます。また、各焼成室には薪を放り込むための小さな穴(小口)が設けられています。
産地によっては大口を胴木の間、一番窯二番窯を一の間二の間、小口を挿し木口と呼ぶなど多少異なることもあります。
各部屋は斜面上に作られているため、下の部屋の熱が自然に上の部屋へと移動していきます。つまり、下の部屋の余熱を上の部屋の予熱に利用するのです。このことにより、一番窯を焼き上げるまでには時間がかかりますが、焼き上がった頃には二番窯は充分に熱せられており、かなり短時間で焼き上げることが可能となります。三番窯、四番窯についても全く同様です。
登り窯のもう一つの特徴として、各部屋の構造が「半倒焔式(とうえんしき)窯」であることが挙げられます。倒焔式窯とは、中を巡る炎の出口が窯の下部にある窯のことを指します。炎の出口が上部にあると窯内に大きな温度差が生じてしまいます(下の方ほど温度が低い)が、それが下部にあると温度差は比較的小さくなります。登り窯は斜面に作られているため、完全な倒焔式窯とは言えませんが、それでも窯内の温度差を小さくするべく考案された構造をしております。
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■ 窯焚き |
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登り窯の焚き方は地方や窯によって多少異なりますが、ここでは私共の焚き方を簡単に説明いたします。
窯焚きには大きくわけて4つの段階があります。具体的には、
・捨て焙り(あぶり)
・焙り
・攻め
・ねらし
となります。
[捨て焙り]
捨て焙りは、窯内の水分(蒸気)を抜くために行います。一見乾いているように見えても、窯や品物、窯道具(棚板や支柱など)は多少の水分を含んでいます。その水分が残ったまま本格的に焚こうとしても、なかなかうまくいきません。逆に、しっかり乾いた状態になると非常に焚きやすくなります。
捨て焙りは大口に薪を投入するのですが、あまり温度を上げすぎないようにします。ある程度焚いたら(4時間程度)、その日はもう何もせずに終了します。
[焙り]
焙り(本焙りとも言います)では、ゆっくりと窯の温度を上げていきます。捨て焙り同様、大口に薪を投入していきますが、目標とする温度(状態)になるまでは約1日かかります。その頃になると、一番窯の中の品物はオレンジ色になっています。
急激な昇温は作品の破損に繋がりますし、窯内の左右の温度差ができてしまうと直すのが大変です。常に昇温のペースや温度バランスを考えながら焚く必要があるとともに、大口内部に良質な燠(おき)をためていくことも重要となります。
[攻め]
攻め焚きからは、大口ではなく小口(各部屋の横に作られた薪投入口)から薪を投げ入れます。一度に投げ入れる薪の量やタイミングによって窯の中の温度が大きく左右されるため、最も集中力が要る段階です。同時に、窯内の温度バランスにも細心の注意を払います。もし左右(この段階では手前・奥)のバランスが崩れてしまうと、それを直すための労力は焙りの時の比ではありません。
一部屋、だいたい3〜5時間ぐらい攻め続けます。そして、のぞき穴から中の様子(ゼーゲルコーン等)を確認し、攻めを続けるかねらしに入るか、あるいは終了するかを決めます。
[ねらし]
ゼーゲルコーンの状態から、だいたい目標状態まで焼けたことが確認できたら、ねらしに入ります。ねらしとは、その温度を保つことで焼きムラを少なくしたり、温度バランスの微調整をしたりすることをいいます。状態にもよりますが、大体30分ぐらいねらしたら終了となります。
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■ 窯出し |
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よく「焚いた時間と同じだけ時間をかけて冷ます」というようなことが言われます。私共の登り窯も例外ではなく、約3日間かけて徐々に冷ましていきます。その頃には一番窯は容易に窯出しができる程まで温度が下がってますが、三番窯ぐらいになるとまだかなりの熱が残っており(サウナどころでない暑さです)、素手で不注意に作品や窯内部に触れると火傷する恐れがあり、また大物などは窯出しによる急冷で割れることもあるため注意が必要です。
窯から出た品物は一ヶ所に集められ、その後で納品したり展示したりしていきます。
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